ホロハーザの故郷ハンガリー  
 ハンガリーは東ヨーロッパに位置し、周囲をスロヴァキア、ウクライナ、ルーマニア、セルビアモンテネグロ、クロアチア、スロヴェニア、オーストリアの7ヶ国に囲まれた内陸国である。人口は1070万人、面積は約9.3万kuで、日本の北海道と四国を合わせたぐらいの広さ。東京都の人口が1000万人であることを考えると、土地のゆとりがうらやましい限りである。国土の半分以上が平原であり、全体の約80%ほどが標高200m未満となっている。特に東部にはプスタと呼ばれる肥沃な大平原が広がっている。その広さは国土の約三分の一を占めるほどで、ハンガリーの農業を支える最大の穀倉、酪農地帯であるとともに、民族の歴史を見つめてきた母なる大地だ。
 そのプスタの中を、ハンガリーを2つに分断する形でドナウ川が南北に走っている。昔から多くの恵みをもたらし続けたであろうその川は、首都のブダペストも通る。世界で最も美しい首都の一つと称されるブダペストは、「ドナウの真珠」とも称されるほどで、その一連の風景は「世界遺産」にも登録されている。ドナウ川は、ハンガリーを語るときには忘れようがない。
 また、四方を陸に囲まれたハンガリーでは、海にあこがれるハンガリー人も多いようであるが、そんなハンガリー人が海に行く気分で出かけるところとして、バラトン湖がある。
中欧で最大級の大きさを誇っており、まさに日本人が海水浴を楽しむのと同様の風景がここでは見られる。
 ハンガリーの歴史は1100年ほど。日本ではあまり知られてはいないが、ヨーロッパでも数少ないアジア系民族のマジャール人達によって興された。彼ら遊牧民としての過去は、現在もプスタの各地で行われる華麗な馬術ショーで覗くことが出来る。
ハンガリーは建国以来、様々な民族や国家の支配を受けてきた。そのことは、同じ国でありながら街ごとに街並みが、多様な顔を持っていることに現れている。しかしながら現在では、それらは歴史的文化遺産として名残をとどめ見る者を魅了し続けている。これらの中には「世界遺産」に登録されているものもある。

 ハンガリーが誇るものは景色だけではない。パプリカやフォアグラ、ワインの王様とも称された「トカイワイン」は、ハンガリーの"食"の代名詞とも言える。これらはレストランで、当たり前のように目にするし、抵抗感なく食せるぐらいの値段で提供されている。
 また、学術・文化・芸術面においてもハンガリ−は宝庫といって良い。ノーベル賞受賞者を何人も輩出したほか、我々日本人が普段利用しているものがハンガリ−人の発明だったりする。例えば、ボールペンがそうなのである。

 さらに音楽の分野でも活躍した人物がいる。
 "フランツ・リスト(1811〜86)"は、「ピアノの魔王」「交響詩の創始者」と称され、ハンガリーと言えばリストが浮かぶという人もいる。代表作品の一つ「ハンガリー狂詩曲」は、フランスやドイツなど住まいを替えた彼が、故郷のハンガリーの舞踊曲などをふんだんに盛り込んで作ったもの。19世紀の名ピアニストとしても知られた。現在、ブダペストに「リスト音楽院」がある。

 "ゾルターン・コダーイ(1882〜1967)"は、「ハンガリー詩編」「マロシュセーク舞曲」「ガランタ舞曲」「ハーリ・ヤーノシュ」「孔雀による変奏曲」など素晴らしい作品を数多く残した。民謡を素材にしつつ変化に富んだ深みのある響きで彩られたコダーイの音楽は、世界中で愛されている。
 彼の音楽教育の業績も大きい。ハンガリーでは、彼の理念にもとづ いて、幼稚園から唯一の国立音楽大学である「リスト音楽アカデミー」に至るまで、専門教育、一般教育の別を問わず、すべての段階で一貫した音楽教育が行われている 。この音楽教育は彼の名をとって、「コダーイ・システム」、あるいは「コダーイ・メソッド」などと呼ばれている。
 コダーイは、「音楽は万人のもの」と考え、「音楽ぬきに完全な人間はありえない」と、一般教育における音楽の役割を重視し、ハンガリーでも一般教育のなかで、音楽が中心的な役割を担うべきであると考え 、ハンガリーの音楽教育の改革に献身した。

 "ベラ・バルトーク(1881〜1945)"の作品は個性的で、数も多く質も高いので20世紀の大音楽家の一人に数えられている。ピアノが上手かった事もあって、ピアノ協奏曲をはじめ子供の練習曲集である『ミクロコスモス』など、ピアノ作品も良く知られている。東ヨーロッパの民族音楽の収集家でもあり、学問分野としての民族音楽学の祖の一人である。
 また、バルトークはコダーイと共に古いハンガリー民謡曲の収集に力をそそいだ。従来、ハンガリー音楽と考えられていたジプシー音楽に代わって、本来のマジャール人(ハンガリー人)の音楽を発掘し、音楽の基礎とした。


 また、ハンガリー国内のお土産屋や露店で、よく見かけるものとしてハンガリー独自のデザインが入った陶器などがある。お土産屋や露店にあるものは、ほとんどすべてが手書きのため、1つ1つが微妙に違うのだがそれがかえって何とも言えぬ味を醸し出している。
 絵付けだけでなく、陶器そのものも手作りのものが多い。ここでも、ハンガリー人の芸術性の高さを垣間見ることが出来る。
 ハンガリーが、もともとアジア系の民族がルーツであることを知ると、不思議さは薄れるが日本人と似ているところが多いかもしれない。先述の通り、数多くのものを発明し世に送り出す"勤勉さ"、陶器の製作技術の"精密さ"など。日本人が昔から"美徳"としてきたものに近いものを、ちらりと感じることができるかもしれない。またハンガリーは、500を超える温泉が湧き出す温泉大国で、温泉を楽しむハンガリー人は少なくない。
 海外旅行の行き先に困ったら、ハンガリーに行ってみてはどうだろうか?もしかすると、新しい日本が見えてくるかもしれない。
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